遺産分割や遺留分侵害額請求における不動産の評価方法について
相続財産に不動産が含まれているときには、遺産分割や遺留分侵害額請求の際に不動産の評価が必要となります。
「不動産はどうやって評価するの?」「相続人間で意見が合わないときはどうなるの?」など疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
今回は、不動産の評価方法を知りたい方に向けて、不動産の評価が必要な理由、不動産の評価方法、どの評価方法を採用すべきか、評価方法で合意できないときはどうなるかなどを解説します。相続の場面で不動産の扱い方に頭を悩ませている方は、ぜひ最後までご覧ください。
遺産分割や遺留分侵害額請求で不動産の評価が必要な理由
相続財産に含まれる不動産の評価が必要となる代表的な場面としては、遺産分割協議と遺留分侵害額請求の場面が挙げられます。
ここでは、遺産分割協議と遺留分侵害額請求に分けて、不動産の評価が必要となる理由を解説します。
遺産分割協議における不動産の評価
遺産分割協議では、各相続人の法定相続分を目安として遺産の分配方法を話し合うことが多いでしょう。その際、不動産は、金額で評価したうえで現金や株式など他の財産と分配方法を調整することになります。
たとえば、遺産が3000万円の現金と実家の不動産の場合、不動産の評価額がわからなければ遺産分割協議を進めるのは難しいでしょう。この場合に、不動産が2000万円と評価されれば、全体の遺産を5000万円として、どのように分配するかの話し合いを進められます。
遺留分侵害額請求における不動産の評価
遺留分侵害額請求では、不動産を金額で評価したうえで遺留分の侵害額を計算します。遺留分は、遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求に改正されたことで、現物返還から金銭での精算に変更されました。
たとえば、法定相続人が妻と子どもで、唯一の遺産である実家を妻が1人で相続した場合、子どもには遺産総額の4分の1の遺留分が認められます。
以前の法律では、子どもが遺留分侵害額請求権を行使すると、子どもが不動産の4分の1の持分を取得することになっていました(現物返還)。
現在の遺留分侵害額請求では、不動産の持分ではなく不動産を金額で評価して遺留分に相当する金銭を支払うことになるため、不動産の評価なしでは遺留分の額が計算できません。この場合に、不動産が2000万円と評価されれば、子どもは親に対して遺留分として500万円(2000万円×1/4)を請求できます。不動産の金額によって遺留分の金額が変わるため、不動産の評価が重要な意味を持ちます。
4つの不動産の評価方法
不動産の評価方法は、1つだけではありません。不動産の評価方法としては、次の4つの方法があります。
- 公示価格
- 固定資産税評価額
- 路線価
- 時価(実勢価格)
不動産には複数の評価方法があるため、どの評価方法を採用するかで争いになることもあります。ここでは、それぞれの評価方法の具体的な内容を解説します。
公示価格
公示価格とは、国土交通省が毎年3月に公示する、全国の標準地における正常な価格のことです。国土交通省では、全国約23,000か所を標準地として、不動産鑑定士の評価による正常な価格を公示しています。
しかし、標準地と似た土地であっても、土地の個別的な事情を考慮せずに公示価格をそのまま利用するのは適切ではありません。実際、公示価格と実際の取引例とでは価格に開きがあるケースが多くなっています。
遺産分割協議や遺留分侵害額請求においても、公示価格がそのまま利用されるケースはほとんどありません。
固定資産税評価額
固定資産税評価額とは、固定資産税や都市計画税を計算するために市区町村が算定する土地の評価額のことです。固定資産税評価額は、公示価格の約7割の額となっており、3年に1度更新されます。
路線価
路線価は、相続税や贈与税を算出するために国税庁が算定する、道路に面した標準的な宅地の価額のことです。国税庁は、公示価格や実際の取引例を参考に路線価を算出しています。路線価の価額は、公示価格の8割程度になっています。
時価(実勢価格)
時価とは、当該不動産が実際に売買されたときに想定される価格のことです。時価は不動産の実際の価格を表すものなので、時価を正確に算出できるのであれば、関係者の納得を得られる可能性が高いでしょう。
時価を算定するには、不動産の個別的事情や実際の取引例、他の評価方法など、さまざまな要素を考慮しなくてはなりません。不動産鑑定士による鑑定や不動産会社による査定は、それぞれが不動産の時価を評価したものと言えます。
不動産鑑定士による鑑定は、国家資格を持つ専門家による信頼性の高いものですが、1件あたり数十万円の費用がかかります。一方、不動産業者による査定は、低価格で対応してもらえますが、業者による価格の差が大きく信頼性は乏しいものです。
不動産の評価時期
不動産の評価は、時間の経過によって変化することもあります。そのため、遺産分割協議や遺留分侵害額請求では、どの時点での不動産の価値を評価するかが問題となります。
遺産分割協議では、遺産分割協議成立時点での価格を基準とするのが一般的です。一方、遺留分侵害額請求では、被相続人が亡くなった時点での価格を基準とします。
たとえば、被相続人が亡くなった時点での価値が3000万円の土地について、遺産分割協議成立時の価格が3500万円のときには、遺産分割協議では3500万円、遺留分侵害額請求では3000万円で土地を評価します。
遺産分割や遺留分侵害額請求でどの評価方法を採用すべきか
不動産の評価でどの評価方法を採用すべきかについて、法律上の決まりはありません。そのため、遺産分割協議や遺留分侵害額請求の話し合いを進めるうえでは、自分にとって有利な評価方法を主張することになるでしょう。
たとえば、遺留分侵害額請求では、請求する側はできる限り高く、請求される側はできる限り低く評価される方が有利です。つまり、請求する側は、公示価格や付き合いのある不動産業者に査定してもらった時価、請求される側は、公示価格よりも低くなる路線価や固定資産税評価額での評価を主張することになります。
遺産分割協議や遺留分侵害額請求の話し合いでは、どちらかが主張する評価方法がそのまま採用されるケースはほとんどありません。両者が評価方法とそれに基づく価格を主張したうえで、話し合いによる調整が行われます。
評価方法で合意できないときは訴訟で決定する
不動産の評価方法について、裁判外の交渉で合意できないときは、調停や訴訟で決着をつけることになります。
調停や訴訟では、当事者双方から不動産会社の査定書や不動産鑑定士の鑑定書が提出されるケースが多いでしょう。当事者が提出した証拠だけで判決を下すのが難しい場合には、裁判所が選任した不動産鑑定士による鑑定評価が行われることもあります。
当事者が不動産鑑定士に鑑定を依頼した場合には、依頼した当事者が費用を負担します。裁判所が不動産鑑定士を選任した場合は、双方が費用を折半するケースがほとんどです。いずれにしても、不動産鑑定士の費用を負担せずに裁判所の手続きを進めるのは難しいでしょう。
まとめ
遺産に不動産が含まれるケースで遺産分割協議や遺留分侵害額請求を行うには、不動産の価格を算定する必要があります。不動産には複数の評価方法があるため、評価方法ですべての当事者が合意するのは簡単なことではありません。
当事者同士の話し合いで不動産の評価方法に合意できないときには、弁護士に相談すべきです。弁護士に依頼すれば、相手方との交渉から調停・裁判まですべての手続きを任せられます。不動産の評価をめぐる争いでお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。